【ビットコインが法定通貨に】エルサルバドルの実情と日本への影響

国際ビジネス

エルサルバドル ビットコインの法定通貨化を考える

 

ここ最近、暗号資産の社会への浸透が加速している。ここ一年を振り返ってみても、テスラやアマゾンの発表により、ビットコインの価格が高騰したり、エルサルバドルでビットコインが法定通貨になったりと衝撃的な出来事が多かった。今回は、社会実験とも形容される、エルサルバドルの暗号資産を法定通貨として採用したことから、暗号資産と法定通貨について考えていく。

中米エルサルバドルでは、2021年9月7日からビットコインが法定通貨となった。エルサルバドルでは、価値が不安定であった自国通貨コロンを2001年に放棄し、米ドルを法定通貨として採用した。現在の法定通貨である米ドルは、そのまま法定通貨の地位を維持するため、2つの法定通貨が併存する異例の体制となる。ただ、世論調査で国民の8割超が法定通貨として信頼していないと回答。首都サンサルバドルで、法定通貨採用に反対するデモも発生。周辺国の受けも良くない。メキシコ銀行総裁はロイター通信に、「自分の給与(価値)が日々10%も上下するような」仮想通貨を、人々は信頼できる通貨と見なさないとの認識を示すなど、普及へのハードルは高い。

導入のメリット

金融包摂(誰もが取り残されることなく金融サービスの恩恵を受けられること)の達成。

現在70%のエルサルバドル人が銀行口座を持っておらず、金融サービスを受けられない状態にあると推定されている。ビットコインは、原則的には銀行など仲介業者を介さずに取引が可能で、世界中の誰に対してもオープンであることが特徴であるため、口座を持っていない人間も金融サービスを受けることが可能になる。

海外送金手数料の削減

エルサルバドルなどの中低所得の国は先進国に出稼ぎに出て国内にいる家族に送金するということが多い。中低所得国にとってはこの送金が国家の大きな収入源となっているのだが、これまでの通貨では送金の際に大きな手数料がかかっていた。この点、暗号資産であれば送金コストを削減することができる点でメリットとなる。

エルサルバドルの場合、国内人口約650万人のほか、約250万人のエルサルバドル人が米国などの海外で生活し、働いているという事情がある。同国のGDPの24.1%にあたる59億ドルもの送金を2020年に受け取っていたことになる。だからこそ、この送金に伴うコスト支払いを減らすことは小さなGDPにとってそれなりに重要な意味をもつことになる。

自国通貨よりは価値が安定している

もともとは自国通貨コロンを採用していたが、これを米ドルに換えている。ビットコインの価値の安定に関しては、議論があることだが、少なくとも小中所得国家の独自通貨と比較すれば、価値が安定しているとの判断だろう。

マイニングによる外貨獲得

国家規模でマイニングに参入することによって自国でビットコインを増やし、外貨を獲得することができるのではないかという見通し、電力は地熱発電を利用して賄うとのこと。

導入のデメリット

金融政策の放棄

自国通貨を放棄しているので政策として金融緩和や緊縮といった金融政策がとれない状況である。とはいえ、米ドルに乗り換えた時点でこの事実は変わらないので当時国にとっては特に問題ないと思われる。

為替として扱うのか、法的な扱い方の問題

日本にもかかわる問題として、資金決済法第二条5項の規定より、ビットコインが法律的に暗号資産とみなされなくなってしまうのではないか。という懸念が生じる。日本の法律では「外国通貨」は暗号資産として認められないと定めている。今回、エルサルバドルがビットコインを法定通貨にしたことで、ビットコインが外国通貨に該当する可能性が出てきたのではないかという疑問が生じる。ビットコインは暗号資産(仮想通貨)に該当しないため、単に暗号資産交換業のライセンスを持っているだけでは、ビットコインを取引できなくなる可能性も否定できない

この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第三項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。

一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

価格変動が激しい

実際に、法定通貨として利用するには、価格の変動が大きすぎる。先ほど述べたように金融政策はとれないため、自国では値動きをコントロールできないし、日々の買い物や給料としてりようされるのにもかかわらず、乱高下を繰り返す貨幣は混乱を招きかねない。また、暗号資産は、銀行サービスを利用できない人の支払い手段としては一定程度普及するかもしれないが、価値が不安定であることから価値貯蔵手段としては利用されない。暗号資産を受け取った人は直ぐに実際の通貨と交換する可能性が高い。

マイニングによる環境問題

ビットコイン・ネットワークの総エネルギー消費量は、世界の総エネルギー消費量の約0.53%を占めており、消費されるエネルギーの85%以上がマイニングによるものだという。特に近年国際的に環境に関する関心が高まっている中で、批判が集中しかねない。とはいえ、既に述べたようにエルサルバドルでは地熱という再生可能エネルギーを利用するとされており、環境問題への配慮がなされているとも言える。

二重法定通貨制度による混乱

そもそも二重通貨制度はキューバなどの社会主義国で外国人と自国民の物価を分けるために使われて来たようなシステムであるが、単純に価値の異なる通貨が2種類流通するため、市民の物価の認識に混乱をもたらす。

IMFとの融資交渉に悪影響も

国際通貨基金(IMF)は7月に、暗号資産(仮想通貨)を法定通貨として利用することに警鐘を鳴らす論文を発表しており、エルサルバドルがビットコインを法制化することをけん制する目的だと思われる。IMFとの関係が悪化すれば融資を受けられなくなり、かえって財政が艱難になる可能性がある。

その他にも暗号資産そのものの問題として、マネーロンダリングの温床になることや、管理者がいないことによる不安定等も絡むだろう。

まとめ

冒頭にもあるように、このエルサルバドルの施策は社会実験であるといえる。ブケレ大統領は、ビットコイン法定通貨化、つまり店舗などにビットコインの受け取りを義務付けることは、国民の70%に及ぶ銀行口座を持たない人々を助けることになるという金融包摂の観点や、海外で働く国民からの仕送りを受けやすくなる、という経済的な観点からのメリットを強調している。しかしそれならば、国民の銀行口座の保有を拡大させることや、ビットコインを安心してドルに換えることができる取引所の整備を優先すべきであるというより現実的な政策をとることもできたはずである。だが、今回全く関りの無い国の私のような少年がこの事案を取り上げていることからも明らかなように、世界からの注目を集めるという点では大きな可能性を秘めているロマンある世策ともいえるだろう。ビットコイン導入を目指す大企業の誘致や、拠点として富を築ける可能性がないともいえないと肯定的にとらえておこうと思う。

他国への影響。日本で法定通貨になることはないのか。

ズバリ、皆無であるといえるだろう。そもそも日本には円という強力な法定通貨が存在し、価格は比較的安定しているし、金融政策を放棄するということがまず考えられない。加えて、日本ではほとんどの人が銀行口座を保有しており、送金が国内収入の大半を占めているわけでも、経済圏から締め出されている人が多いわけでもない。

つまり、リブラコインをはじめとするステーブルコインが国内で流通しないとの意見と同様の結論となる。そもそもステーブルコインは運営して儲けたい企業と講座保有率が乏しい、貧困国との間で流行るものであるだろうと考えており、先進国では海外送金のマージン削減のための1つのサービス、手段に過ぎず、結局コインを現法定通貨に換えて利用するのに過ぎないと思われる。であれば、やはり日本においても暗号資産が法定通貨の地位を脅かすとは考えにくい。他の国と足並みをそろえるならいざ知らず、単独導入は間違いなくゼロであろう。

とはいえ、他国が、暗号資産を法定通貨として扱うとなると、それを外貨として扱わなければならないのか。という法的な問題は依然として大きい。今後の議論の対象となるだろう。

その他の追加研究

ブラックウェブの決済手段としての利用。仮想通貨による支払いにより足がつかない

アマゾンやテスラの試みの今後の影響

 

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